「立憲的改憲論」
わが国では、憲法を語るときに“憲法は国民が権力を縛るもの”という説明がされることが多い。これは全く正しいが、国家に権力を与えるのもまた国民であるという視点もあわせ持ちたい。 “権力を与え、権力を縛る”という国家権力統制型の改憲論が『立憲的改憲論』であり、権力の正統性の源泉を国民におく国民主権の具体化であると考える。日本の憲法は諸外国と比較して統治機構に関する文言が圧倒的に少なく、選挙制度や解散権の在り方、自衛権行使の手続きなど極めて重要な事柄も、その多くが法律や解釈に委ねられている。そのため、本来国民投票によって改正すべき事項すら、時の権力による解釈変更でまかなわれ、法の支配の空洞化と三権分立の歪みをもたらしてきた。あわせて世界の潮流は裁判所に積極的に憲法適合性を判断させていく傾向にあるが、日本は高度に政治的な事柄は判断しないという統治行為論によって判断を回避する傾向が強い。司法消極主義からの転換を可能にすべく、憲法裁判所の議論も活性化させるべきだ。
菅野氏は、議員時代に作成した憲法改正に向けた素案を基に、緊急事態条項、解散権の制約など統治機構の再構築と、デジタル時代に人間の尊厳と民主主義を守るためのデジタル基本権について解説。AI時代の到来、巨大プラットフォームについても言及し、とくに巨大プラットフォームについては、「国家に匹敵する新たな統治者として国家との協力や一定の義務を果たすべき」「対中安全保障のメニューとしてもデジタル基本権の装備は必要」と訴えた。
いまも人権外交を超党派で考える議員連盟とつながりを持ち、自身も国際人道プラットフォームの社団法人を立ち上げたという菅野氏。
「現行憲法は70年以上前に制定されたものにもかかわらず、人権保障の分野に関しては、その後の制定された諸外国の憲法と比較しても遜色ない内容になっている点は高く評価されてよい」と語った。しかし、デジタル新時代に個人の尊厳を守るためには、「サイバー空間も含めた個人の尊重、人権規定の強化、デジタル・デモクラシーへの対応を念頭に置いた制度設計が不可欠」と指摘。「コロナ禍で緊急事態とデータの資本主義をどう各国が制御していくかが問われた。日本は欧米と手を組んで人権に考慮しながらビッグデータを活用していくことが現実的ではないか」と主張した。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。